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松山地方裁判所 昭和51年(行ウ)1号 判決 1978年5月29日

原告 株式会社四国互助センターほか一名

被告 愛媛県知事

訴訟代理人 山浦征雄 曽川収 山本喬久 片山卯三郎 ほか三名

主文

1  原告株式会社四国互助センターの請求を棄却する。

2  原告八木敏明の訴を却下する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  本件訴の利益について

被告は、原告らに対する本件各処分は一定期問が付されており、すでに右期間は経過しているので、本件訴はその利益を欠き、却下されるべきであると主張するので、この点につき判断する。

本件訴は、被告が原告らに対してなした昭和五一年一月二三日から同年三月二二日までの期間本件各自動車の使用を禁止し、右各自動車の登録番号標を領置した処分の取消を求めるものであるから、現在右期間は経過しており、原告らはいま右各処分がなかつたと同一の権利状態に一応復しているものということができる。

しかし、こ原告らの行う告別式場と火葬場との間の人の輸送および遺体一の搬送は、その性質上ある程度継続的に行なわれるものであり、他方、被告は一貫して右各輸送行為が道路運送法四五条の二に違反する行為であるとの見解を堅持していることは、弁論の全趣旨により明らかであるから、原告らにおいて右輸送行為を続行するかぎり、被告は右見解にもとづいて本件各処分と同様の処分をなすであろうことは予測に難くない。

この意味においては、原告らが行なおうとする右輸送行為ひいては原告らの事業活動ないし業務遂行に対する危険は、依然としてあるということができる。

そうすると、前記期間経過後であつても、原告らは本件各処分の取消を求めるにつき、なお訴の利益を有するものといわなければならない。

二  訴願前置について

本件各処分は道路運送法一〇二条一項一号、三項、四五条の二第三項、四三条の二第一項によりなされたもので、この処分の取消しの訴は同法一二一条により、右処分に対する異議申立てまたは審査請求に対する決定または裁決を経た後でなければ提起できないこととなつているところ、<証拠省略>によれば原告会社は、本件自動車(一)、(二)を問題の告別式場から火葬場までの人の輸送以外に、従業員の研修やいわゆるセールス業務のためにも使用していることが認められるから、原告会社は本件各処分によつて、経営上重大な支障をきたし、著しい損害を蒙るおそれがあり、このことは、行政事件訴訟法八条二項二号に該当するものと認められ、原告会社の本件訴は適法というべきである。しかし、原告八木については、<証拠省略>によれば、本件自動車(三)は原告八木の通勤用の傍ら、原告会社の業務執行に用いられていることが認められるのであるから、いまだ本件各処分により、原告八木自身が著しい損害を蒙るおそれがあるものということはできず、前記異議申立てあるいは審査請求をせずなした原告八木の本件訴は不適法として却下を免れない。

三  本訴請求に対する判断

1  原告会社が本件自動車(一)、(二)を所有していること、被告が原告会社に対し本件各処分をしたことは当事者間に争いがない。

2  ところで、道路運送法における「自動車運送事業」とは他人の需要に応じ、自動車を使用して旅客または貨物を運送する事業をいい(同法二条二項)、事業であることから常時反覆、継続して行うか、またはその意図をもつて運送することを要するものの、他人の需要に応じて反覆、継続的になす目的をもつて運送すれば、一回の運送行為であつても右自動車運送事業に当るものと解すべきであり、したがつて、右「他人」が特定のものであるか、不特定のものであるか、運送回数、輸送された人員の多寡は直接右「自動車運送事業」か否かの判断を左右する要件とはいえない。

3  また「自動車運送事業」は「他人」の需要に応じてなされることが一要件であるから、公共の目的で行なわれる場合、自己に従属する者に対し、自己の目的のために運送行為を行う場合および運送行為が自己の生業と密着していて、独立の事業と把握できない場合には自家需要によるものであつて、右「自動車運送事業」とはいえないものである。

4  そこで原告会社がなした告別式場から火葬場への人の往復についてなした輸送行為がこの「自動車運送事業」に該当するか否かについてみる。

<証拠省略>によれば次の事実が認められる。

(一)  原告会社は本件各処分当時愛媛県西条市駅前に綜合結婚式場高砂殿を経営し、婚礼挙式に要する各種の役務の提供、物品の販売、貸付などの業務を、また葬祭部としては葬祭儀礼に関する設営その他の役務、を提供する業務を行つていたものである。

(二)  原告会社の経営方式は、冠婚葬祭の施行につき相手方と互助契約約款(<証拠省略>)により冠婚男子、女子契約あるいは葬祭契約なる互助契約を結び、相手方は定められた契約金額を月賦で支払い、原告会社は右契約による役務等を履行するものである。

(三)  ところで、原告会社は、昭和五〇年一月から一二月中旬までの間に本社で取扱つた葬祭件数二二〇ないし二三〇件の半数に当る一一〇ないし一一五件につき本件自動車(一)を用い、同じく同年八月から一二月中旬までに新居浜支社で取つた葬祭二〇件のうち半数の約一〇件につき本件自動車(二)を用いて、前記契約者の求めに応じて無償で、会葬者を自宅あるいは寺院に設けられた告別式場から火葬場へ輸送した。

(四)  原告会社は同社が作成、使用しているパンフレツトに営業案内として本件自動車(一)、(二)の「マイクロバスのご用命」なるものを揚げて、前記告別式場から火葬場への人の輸送を同社の役務提供の一つとしている(原告は右自動車の他にはマイクロバスを保有しておらず、また右輸送につき他者所有のマイクロバスを利用していることを認めうる証拠はない)。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告代表者尋間の結果は措信できない。右事実によれば、原告会社の行つた右認定の輸送行為は反覆、継続してなされているものであり、まさに自動車による運送「事業」ということができ、原告会社が主張するように例外的になされたものであるとは到底いうことができない。

さらに、原告会社が行う葬祭の施行等は同社が葬儀の設営等をすること以外に業務はなく、葬儀の行なわれる場所は原告会社が支配せず、またその目的のためにあるのではない遺族の自宅や寺院であつて、結婚式場を経営している場合のような多数人の来集に適する設備をして、来集する客の需要(挙式)に応ずる種類の取引(場屋取引、商法五〇二条七号)とは異るから、会葬者の式場への輸送は右葬祭業務と密着した行為とはいえず、いわんや告別式場から火葬場(公営)への遺族などの輸送行為はなおさらである。

してみると、原告会社が無償で行つた輸送行為は道路運送法四五条の二の無償自動車運送事業に該当し、弁論の全趣旨によれば、原告会社は同条一項所定の届出をしていないことが認められるから、同条項に違反するものといわなければならない。

原告会社は右葬祭施行業務を含め、その行う業務について割賦販売法二九条の五所定の通産大臣の許可を得ている旨主張するが、仮りに右告別式場から火葬場への遺族等の輸送行為が同法施行令一条二項、同施行令別表二の指定役務に含まれるとしても、その立法趣旨は道路運送法のそれと異にするのであるから、右判断を左右するものではない。

5  被告が原告会社に対し本件各処分をなすに至つた経過については、<証拠省略>の結果を綜合すると、愛媛陸運事務所は告別式場から火葬場までの遺族等の本件輸送行為については昭和五〇年一二月八日、翌五一年一月九日にそれぞれ確認作業を行い、その間昭和五〇年一二月八日には、原告会社代表者の代理人曽我部哲から事情聴取をするとともに右違反行為の中止を要請したが、原告会社はこれを止めないため、昭和五一年一月一四日付で本件処分をしたものであることが認められるから、被告が本件処分をするに手続的に著しく公正を欠くなどの違法はなかつたものということができ、また、原告会社がいう被告と既存業者との癒着があつて、本件処分がなされたと推認しうる証拠はない。

6  以上のとおりであつて、原告会社の本訴請求は理由がないから、棄却することとし、原告八木の本件訴は不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条及び第九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水地巌 岩谷憲一 岡部信也)

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